運動習慣と生活習慣


   喫煙が冠動脈疾患の危険因子の一つであることは皆様よくご存知の通りです。
  私は有酸素運動で汗を流された方が、運動の後に煙草を喫っておられるのを見ると、
  折角右手で積み上げた積み木を左手で崩しているように思えて大変残念です。
喫煙の有酸素運動に対する影響をお話し致します。禁煙への蹄み切り台として
ご活用頂きたいと思います。
 アメリカの学者McDonoughとMoffattが、喫煙の有酸素運動に対する影響を
70余りの論文をもとに検討し、最近のニュージーランドのスポーツ医学雑誌に
書いておりましたのでご紹介します。
 結論から先に申し上げます。
 1) 喫煙は最大酸素摂取量を低下させます。スタミナを落とすのです。
 2) 喫煙は無酸素性代謝閾値を低下させます。早く乳酸が出現して早く
   疲れてしまいます。
 3) 喫煙は気道抵抗を増し、その結果、呼吸をするためだけに使う酸素の消費を
   大幅に増大させ、その分、運動のために使える酸素の量が減ります。もともと
   最大酸素摂取量がより少ないひとと同じになってしまうわけです。風邪の時スタミナが
   おちるのと同じ現象で、疲れ易くなります。
 煙草の主成分は一酸化炭素、ニコチン、タールです。
 一酸化炭素は、ヘモグロビンに対する親和性が酸素の225倍もあります。さらに、
  筋肉での酸素の受取り手(以前『鉄と有酸素運動』で鉄欠乏性貧血のことでお話しした)
  ミオグロビンに対しても、一酸化炭素の親和性は酸素の200倍もありますので、
酸素の運び手と受け取り手の座が一酸化炭素に大幅に占領されてしまいます。
  最大酸素摂取量が減るのはこのためで、その減少は血液中の一酸化炭素ヘモグロビンの
濃度に平行します。なお、最大酸素摂取量の減少は一酸化炭素だけを吸入した際よりも、
これに匹敵する量の煙草を喫った場合の方が強かったそうですから、煙草の場合は
ニコチンの関与も加わるものと思われます。無酸素性代謝閾値の低下は、筋肉の
毛細血管の血液中の酸素濃度低下のために起こります。同じ運動強度の運動中でも、
喫煙者の方が早く乳酸を発生しますので、非喫煙者よりも早く疲れてしまいます。
以上のことは、喫煙者の周囲のひとにもみられることをどうぞお忘れなく。
有酸素運動について、4回書かせて頂きました。有酸素運動をまだお始めになって
おられない方は、是非身じかなところから運動習慣を身につけて頂きたいと思います。
運動習慣はあなたの財産です。財産を手にし大切に殖やして下さい。「私はもう運動習慣を
持っています。」とおっしゃる方、財産はすぐ無くなりますからお気をつけになって下さい。
 
                                 霞が関ビル診療所
                                    内科  佐野 忠弘