明らかな病因の見当らない
    心臓突然死
 

 一見健康にみえる人が、さしたる誘因もなく急に死亡することがある。
新聞紙上を賑わす乳幼児の突然死症侯群などはその好例であるが、
成人にも似たような状態がいくつか存在する。
 元来、生物には自分に適合しない細胞を自已死させる機能があり、
枯渇死(アポトーシス)と呼ばれる。木の葉がひとりでに落ちたりするのも、
その一つの現われという。動物にもこれに相応するものがある。癌などは
個体が枯渇死との戦いに負けた緒果ともされる。
 アポトーシスに似て、通常の動作で通常の人が急に死亡してしまう
状態には、次のようなものがある。その多くは研究中のもので、実態は
完全に解明されてはいない。
1.睡眠中の突然死
 昔から肥満者の睡眠時呼吸障害が有名であったが、最近は睡眠時無呼吸
症侯群という概念で捉えられている。低酸素血症から左心不全、肺水腫をおこし、
また危険な不整脈を惹起しやすい。睡眠中、呼吸数が徐々に減少し、数10秒から
1分間近く呼吸が止まる状態は、中年期以後の男性によく見かけられる。舌根が
喉に沈下して気道を塞ぐ例がある。苦しくなると(血中酸素濃度低下、炭酸ガス
濃度上昇)、突然大きな呼吸をするが、そのさい、重篤な不整脈を生じることがある。
2.運動に関係する突然死
 スポーツ中、交感神経が極度に緊張し(頻脈)、終った瞬間副交感神経が
緊張して頻脈を徐脈の方へ引き戻すが、過度になると、そのまま心拍が
停止してしまう例がある。ウォーミングアップとともに、クール・ダウンの必要な
ゆえんである。
 中高年者のスポーツ中の突然死には冠動脈硬化の関与が考えられねば
ならないが、一般検診で発見されるような場合は稀である。スポーツ前の体調が
悪い場合(睡眠不足、過労状態、日常生活に支障のない程度の軽度な病気など)、
突然死が多いとされている。
 スポーツのうち、もっとも突然死を来し易いのはゴルフである(実に50%に及ぶという
統計がある)。ことにグリーン上での死亡が多い。野球での突然死も含め、球技の
場合に突然死が集中しているのは心すべき事実である。素人のスポーツは互いに
競い合わないリクリエーションでなくてはならぬと思われる。
3.ストレス
 近年、過労死が問題視されている。社会生活からストレスを除去することは
できないが、働き過ぎて死亡する例のうち、何人かに一人は突然死である。
ストレスと死亡の因果関係は全く不明であるが、もともとなんらかの引き金が
あったのではないかと思われる。あれほどストレスの大きかった大戦中、
過労死など聞いたことがないからである。
4.愛の死
 成人,ことに男性の興味の一つだが、事態は霧の中である。しかし決して
稀ではなく、私は7例の経験例を持つ。これも一種の球技かもしれない。
バイアグラ発売以後、愛の死としての突然死がクローズアップされているが、
この薬には本来直接に突然死を誘う作用はなく(薬剤使用の有無を問わず、
突然死の総数は不変という)、問題は他剤との併用である。ことに降圧剤、
亜硝酸剤など、血圧下降を来す薬剤使用後のバイアグラ服用は危険である。
過度の血圧下降を生じるからである。
5.薬物による突然死
 元来、副作用の全くない薬剤はほとんどない。麻薬やシンナーなどは論外だが、
不整脈の薬が不整脈,しかも致死性不整脈を生じることを知っていて損はない。
怪しげな(しかも高価な)特殊売薬や健康促進薬にも注意を要する。