弁逆流の評価
カラードプラ法の功罪

坂本ニ哉● 『Journal of Cardiology』創立編集長
 弁逆流診断の主力は、かつては聴診・心音図であった。Mモードエコー図の出現は
狭窄症には有用であったが、逆流症にはほとんど無力であった。逆流に伴う様々な
心エコー図上の変化は、その後も決定打を欠いていた。しかしカラードプラ法の出現位後は
完全に主客転倒、心エコー図法の優位性を確立させたかにみえた。
 だが、いくつかの問題が発生した。その一つはやたらと四弁弁膜症、つまりかつては
たいへん珍しく、症例報告にさえなっていた“quadrivalvular disease”が四弁逆流症
“quadrivalvular regurgitation”として多くの例にみられるようになり、逆流評価に対する
“臨床的”基盤が揺らいでしまったのである。
 右心性の弁、すなわち三尖弁と肺動脈弁の逆流は日常のことである。幼小児期には
肺動脈弁閉鎖不全雑音を聴取できる例がある。一方、三尖弁閉鎖不全雑音は聴取
されないのに、カラードプラ上逆流をみる例は数多い。かつて心房細動での頸静脈波X谷の
消失傾向が三尖弁閉鎖不全に帰されたことがあるが、洞調律例で頸静脈波曲線が
正常でも、明瞭な逆流がみられる。これら右心性の弁は1600年代に考えられていたように、
閉鎖を主目的とするのではなく、血流を調節するためにあるようにも思える。
 左心性の弁(僧帽弁、大動脈弁)は“圧力弁”で、簡単には逆流を生じないが、年齢が
高くなると逆流を生じ始める。
 報告書にTR(+),PR(+),MR(+),AR(+)のように書かれると、受け持ち医は
そのまま信じ、あるいは初めての医師なら仰天する。
 しかしこれらの逆流のほとんどは臨床的に無意味である。例えばMモードカラー法で
全収縮期性でないとか弁形態に異常がない、あるいは右房や右室が正常大の場合、
三尖弁逆流は正常範囲と考えねばならない。
 左心性逆流では、聴診上それに相応する心雑音が聴かれぬ場合は無視してよい。逆に
僧帽弁逸脱の偏心性逆流のように、カラーではたいした逆流とは思われなくても、
逆流性収縮期雑音が聴取される場合(時としてかなり強大)、有意な逆流があると判定する。
最近はリウマチ性の逆流は数少なくなったので、カラーでの逆流面積から逆流の程度を
細分することは、臨床的にあまり意味をなさなくなった。聴診のほうがはるかに重要である。
少なくとも聴診所見を念頭に置いてエコーをみるのでなければならない。