心エコー図法の泣き所

坂本ニ哉● 『Journal of Cardiology』創立編集長
 現在の心臓病学にとって心エコー図は欠くべからざる方法論である。1960年代の初め
シカゴに留学した私は、金のない患者ではX線や心電図を省いて「心音図」をとれと
命じられた。それで心電図は心音図用のブラウン管上で観察しメモするだけで我慢した。
もともと心電図屋の私の抵抗である。今ならさしずめ「心エコー図だけはとれ」ということに
なるであろう。
 だがあらゆる検査法にそれぞれの限界があるように、心エコー図も決して万能ではない。
それには記録不良(きれいな記録ができない)とか、死角(dead angle)の問題がある。
 心筋梗塞のように、殊に壁運動について詳細な所見がほしい例で、良い記録が得られず
残念に思う例は決して少なくない。これらは肺による(空気による)障害か、肋間腔が
狭いためによるもので、肥満体では殊にその傾向が大である。それゆえ、心電図から
推定する梗塞部位と心エコー図のそれが一致しない(手技上)場合が起こる。体位を
変えたり呼吸相に留意したりするが、なかなかうまくいかず、ギブアップとなる。最近、
体表面から冠動脈予備能を見られるようになったが、手技が悪いせいか、いまだ成功して
いない。コントラストエコーは面倒、運動負荷やドブタミン負荷心エコー(ストレスエコー)は
検者にとって“ストレス”であり、なかなか普及しない。それでも昔に比べれば随分きれいな
エコー図がとれるようになっている。画像診断法はまずきれいな図を得ることが第一である。
 心エコーの死角は殊に心尖部にある。心尖部肥大型心筋症が心エコー図で発見し難い
のはそのためである。肥大型心筋症が疑われて(殊に左側胸部誘導での深い陰性T波を
伴う左室肥大例)、心エコー図が正常な場合は、まず間違いなく心尖部肥大症である。
心基部から心尖方向へMモードスキャンを繰り返すと、ある点から急に心筋傷害が増大
してきてそれとわかるのだが、そこまで熱心に記録しないで検査が終わってしまう。しかし
どんなに熱心に探索しても未解決の例は少なくない。最終的には磁気共鳴画像(MRI)
による短軸像の観察で診断するよりほかない(左室造影は万能ではないし−側壁などは
診断不明、何よりも観血的検査という難がある)。ちなみに胸壁上の心尖部は解剖学的
心尖よりもかなり心基部に近く、乳頭筋付着部にあることを知っておくべきである。
断層法によって正確な左室長軸を求めうるはずだという考えは、一つの幻想なのである。